糖尿病と自律神経障害
はじめに
当院では、自律神経に焦点をあてて診療を行っています。そこで本ブログでは、自律神経と疾病という観点から重要な論点を取り上げていく予定です。まずは糖尿病からスタートしましょう。
糖尿病による自律神経障害は、糖尿病が長期にわたって進行すると発生することがある合併症です。高血糖状態が自律神経系にダメージを与えることで、様々な身体機能に障害をもたらしますが、自律神経系は、心臓や消化器系、血圧、呼吸などを無意識にコントロールするため、この障害が生じると全身に影響が現れる可能性があります。
症状
糖尿病による自律神経障害の症状は、影響を受ける器官やシステムによって異なります。主な症状は以下の通りです。
- 消化器系の症状: 胃の排出が遅くなる胃不全麻痺(ガストロパレシス)、下痢や便秘、腹部膨満感
- 心血管系の症状: 立ちくらみやめまい(起立性低血圧)、心拍数の異常
- 泌尿器系の症状: 尿意を感じにくくなる、排尿困難、頻尿や夜間頻尿
- 生殖系の症状: 男性の場合は勃起不全
- 発汗異常: 異常な多汗や無汗
- 低血糖認識の低下: 低血糖時に典型的な症状(動悸、震え、発汗など)が現れにくくなる
- 顔面の異常: 瞳孔反応の低下、眼球運動障害、物が見えにくい、瞼がさがる、顔面神経麻痺など
原因
糖尿病による自律神経障害の主な原因は、高血糖状態が長期間続くことで、神経やそれを取り巻く血管が損傷されることです。
- 高血糖: 高血糖状態は神経に酸素や栄養を供給する細い血管(微小血管)を損傷し、神経の機能が低下します。
- 酸化ストレスと炎症: 高血糖により体内の酸化ストレスが増加。神経細胞の炎症を引き起こすことが自律神経系への影響を悪化させます。
- 代謝異常: 糖尿病に伴う脂質代謝やタンパク質代謝の異常が、神経の正常な機能を損ないます。
治療方法
糖尿病による自律神経障害の治療は、主に血糖値の適切な管理と、症状に応じた対症療法が中心となります。
薬物療法
- 心血管系の症状:起立性低血圧には昇圧剤や水分・塩分補給が有効、心拍数の異常には調節薬の使用が可能です。
- 消化器系の症状:消化管の動きを促進する薬剤(メトクロプラミドなど)、便秘薬などが利用されます。
- 泌尿器系の症状:尿路系の異常については、各種自律神経調整薬が利用可能です。
- 生殖系の症状:勃起不全にはPDE5阻害薬(バイアグラなど)が用いられます。
- 発汗異常:外用薬、内服薬による調整のほか、外科的に介入する方法もあります。
一般的な注意
- 生活習慣改善: バランスの取れた食事、規則正しい生活リズム、適度な運動が推奨されます。血圧やコレステロールの管理も重要です。
- その他の治療: 自律神経の働きをサポートするためのリハビリテーションや、心理的なサポートも治療に役立つ場合があります。
- 血糖管理: 血糖コントロールを改善することで、進行を抑えたり、一部の症状を改善することが可能です。食事療法、運動、インスリンや経口薬の調整が行われます。
まとめ
糖尿病による自律神経障害は多岐にわたる症状を引き起こします。悪化が著しい場合には回復が望めないこともあるため、早期に適切な治療を開始することが重要になります。
近年、糖尿病治療は進歩が著しく、重症の患者様でも改善が期待できますので、定期的な検診や症状の兆候を早期に発見することが推奨されます。
当院では、糖尿病患者の自律神経障害に関する診療を強化しています。必要があれば、お問い合わせください。